東日本(被災地)からの材料を使っていないですよね?〜使っているかもしれないですけど、それが何か?〜
東日本大震災から10年ですね。
当時、栃木県のお客様からの依頼を受け、家づくりをさせていただいていたのを思い出します。建築資材の入手が困難になり、九州から一部の材料を配送しました。
震災後、というか、原発の放射線に関する問題、主に風評被害が食だけでなく、建築資材に関しても、懸念を示す、嫌悪する消費者が出てきました。
依頼主の一人から、質問を受けました。
「小川さんは、安全、安心の家づくりをされているので、建築資材のなかに、東北からのものは含まれていないですよね?」と。
私の当時の説明は、おおよそ以下の通りです
・住宅建築には数万点のパーツ、建築資材が必要であり、それは世界中のどこかで誰かの手で製造されたものが使われる。ネジ一本の原材料をたどることになるし、それに放射能が、人体に影響を与えるほどの放射能が含まれているかどうか、確認できないし、確認するつもりもないし、人体に影響を与えるようなものは含まれない。
・ネジはさておき、例えば、主要な部材である、構造材(木)、外壁材、断熱材、室内に利用する無垢材、珪藻土などの原料、製造所が東日本大震災の被災地のものが含まれる可能性はある。
・仮に、製造工場が被災地だったとしても、私はそれを排除することはしない。製造再開しているのであれば、積極的に仕入れさせてもらう。なぜなら、科学的根拠がなく、それはまさに偏見であり、風評被害だから。「かの地で製造されたものを使うな」ということは、すなわち「かの地で生きる、暮らす人たち、その地のために、行き来している人たち、人生をかけてなんとかしようとしている人たちとも、接触するな、家づくりに関わるな」という意味になる。私は、そういう人間ではないし、小川の家は、そういう会社ではない。
「被災地のものを使うな」「放射線を測定しろ」という要望に応え、それを売りに、消費者から支持され、業績を伸ばした住宅会社がある。それはおかしいと思いながらも対応した工務店もいる。でも、私はそういう人間ではない。金のために魂は売らない。私には、これらの風評被害で苦しんでいる、敬愛する友人たちがいる。彼らの顔を思うと、偏見に対応して、お金を稼ぐなんて、ありえない。
依頼主からの質問があった時、考えと事実を説明して、理解していただけないようであれば、契約済みでしたが、契約を当方から解除するしかないな、と覚悟を決めて、上記の内容をメール返信しました。会社の売上の10%(うん千万円)が一気になくなるわけですが、しょうがないな、と。
お客様は、確かにその通りですね、大変失礼しました。
とすぐに返信してくださいました。
社会における様々な問題において、差別、偏見や風評被害がなくならないどころか、昨今は、拍車がかかる、そんな社会構造の本質的な原因の一つには、結局、こうやって、一つの偏見に対して、それはおかしいですよ、なぜなら〜です。私は、我々は、間違った認識に対して、迎合することはしません。どうなさいますか?と局地戦で戦うことを、日々、回避しているからです。
家づくりの相談においても、似たようなことは、起こります。偏見や間違った認識に基づく、要望に対して、どう向き合うか。つくり手の矜持、信念、プロとしての知識や経験、覚悟がそこで試されると思っています。
何より、生き方は行動に現れる。