MY LIFE

土地に家を建てるということ〜住宅の復興に思う〜

先月お引渡しを終えたSさま
以前にも投稿しましたが、相談⇒依頼⇒全体計画⇒土地探し⇒農地法⇒資金調達⇒建物許認可⇒建築工事と1年がかりでした。
長崎のような平常時、道路・上下水道は整備済み、売主(地権者)も存命で協力的、行政の人員も十分、それでも分譲宅地ではない場合、住宅を完成させるまで1年かかりました。
今月末竣工予定のK邸。
ご実家に隣接した斜面地(畑)を造成して、新居を建てます。
「畑を造成する」といえば技術的な問題だけで単純そうですが、権利関係を調べると容易ではありません。Kさんの場合は、畑の一部のみ所有権を移転して、住宅ローン融資を受け、建築。これも1年がかりでした。
「住宅の復興が進まない、遅い」
という報道等を見聞きするたびに、住宅再建、とくに権利関係が不明確になった土地に家を建てるというのは、そもそもそういうスピードで解決するような問題ではないのです。
敷地と隣地の境界、所有者、相続人とその親族、震災で亡くなった方はもちろんですが、それ以前に死去していて、費用をかけて相続登記手続きを行っていないケースは多々あると思います。
敷地を特定するには境界立会が必要であり、隣地の権利者関係者すべてに実印をもらう必要がある。
復元しようにも、地震で地殻変動が起こっており、現在の高精度な測量技術がかえってトラブルを生む。
全額現金で土地+新築ができるほど資金力がある方以外は、金融機関の融資が必要です。融資を受けるためには、所得と返済能力とは別に、建築地および隣地の権利関係はもちろん、所有権移転登記と抵当権設定が前提になります。農地法をクリアする必要があれば、さらに困難な行政手続きが必要です。
これらすべての手続きを「一歩前進」されるためには、
亡くなられた方と相続人をすべて特定し
各自から実印をもらう=合意形成が必要です。
住宅に関連する補助金の申請には、通常、
「民⇔民」の問題は申請者側ですべて解決していることが要件になります。資金調達も含めて。
ですから、極めてややこしい権利関係を解決してからでないと、
建物の設計や住宅再建の助成金申請のお膳には上りません。
国が土地を買い取るにしても、当該土地を一筆ずつ所有者を特定する必要がある。
名義人(または相続人)から同意を取り、
土地家屋調査士、司法書士が段取りして、
法務局が「うん」という書類を整えるのは、
想像しただけでも気が遠くなる業務です。
効率化とは対極の仕事です。
これをやれる人材というのは、豊富な知識と経験、忍耐と粘り強い交渉力が必須であり、そうはいないと思います。
根本的な問題は2つあると思います。
1つは、この困難な仕事を請け負ってもらう人に、応分のフィーを払う=価値を認める社会ではないこと
2つは、行政が構築した複雑な法令と許認可の仕組みそのものが復興の阻害要因であること。
住宅の復興も家電製品が届くのと同じ感覚で
「早くできるもの」というまちがった先入観が
関係者に過大なストレスを与えるのではないでしょうか
僕に何ができるかっていわれると、何もできません。
投稿するのもやめようと思ったのですが、昨夜、私のメンターのひとりにこの話をしていたら、「投稿してよ、みんな知らないから」と背中をおされ。
分譲宅地以外の土地に、
融資を利用して
家を建てるということは
そう単純で簡単なプロジェクトではないのです。
とはいえ、住宅は家族生活と社会インフラの根幹です。
いつか、どこかで、復興のお手伝いができればと思います。

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私が書いています

代表取締役 小川勇人(おがわはやと)

代表取締役 小川勇人おがわはやと

1973年長崎の小さな工務店の長男として生まれる。2000年頃、シックハウス症候群と様々な社会問題が子育ての住環境に起因していることに気づく。以降、子育てを優先した家づくりに徹する。日経ビジネス誌にて「顧客の人生を助ける善い会社」として紹介(2015),著書「暮らしは変えられる」(2008)#妻と二男一女#ウルトラマラソン#登山#MBA(長大大学院,2014)#熊大工学部(1996)#長崎東#福大非常勤講師

暮らしは変えられる 「子育て優先」という選択 小川 勇人  (著) 小川 勇人のFacebook
子育ては、小川の家。